不妊治療と漢方薬

不妊症割合 世界は9% 日本は16%

現在の不妊症の定義は、特に避妊をせずに普通の夫婦生活を1年(2015年に改訂されました)以上続けられても妊娠されない場合とされています。

以前は2年間と規定されていましたが、晩婚化など社会情勢を鑑みて、早期に不妊の可能性を意識していただくように2015年に1年間に改訂されました。

海外での報告ですが、治療を受けない状態で、半年間で妊娠される確率が80%、1年間で妊娠される確率が90%というデータがあります。

一方で妊娠に至るまでの平均期間は女性の年齢に従い長くなる傾向があり、35歳以上で平均値が1年間を超えるという報告も。ウチだけがどうして不妊症で悩まなければならないのかとお考えかもしれません。しかし実は赤ちゃんを望まれながらも妊娠されないカップルはこの2000年の調査では8組に一組だったのが、2010年の調査では6組に1組へと増加傾向にあります。2007年の世界規模の調査結果の9%と比較して日本の割合は高いのですが、最近では女性の社会進出で妊娠、出産を先延ばしにされるご夫婦も多くなったことも一因でしょう。

妊娠されにくい場合にはまず検査を受けられて、西洋医学的に何か問題点がないのかを調べられることをお勧めします。

こころとからだの応援団 漢方治療

不妊症でお悩みの方は、周囲との関係も含めて、その重荷をたくさん背負い込んでしまわれることが多いようにお見受けします。漢方薬を処方する診療の中では、お話をおききすることの比重がかなり多いため、そういった心のしんどさを打ち明けて下さる患者様が少なくありません。心の負担を中医学では七情といい、体質のバランスを崩す原因のひとつと考えています。漢方薬の治療効果には、それを処方する医師との相性も含まれています。

漢方での治療は西洋医学での治療とはまた違った方向性で進められるものです。それぞれ良い部分がありますので、実際に西洋医学の不妊治療と同時に並行して漢方治療をうけていだたいておられる患者様は少なくありません。

中医学(漢方薬)治療のおはなし

ここでは不妊症・不育症の方への治療についての基本的な中医学的な考え方をお話します。専門的な内容ですので、あまり詳しすぎないように専門用語は添え書き程度の最低限に抑えます。(以下※印は中医学の用語です)

患者様にもいろいろな状況の方がおられます。ほとんどの場合漢方薬は何らかの役には立つと思いますが、卵管閉塞や無精子症・大きな腫瘍などの問題がありますと、漢方薬だけでは効果は期待できません。
特に漢方薬の適用というものはありません。西洋医学では異常なしとされる場合や、異常はあるものの機能的なもので治療する方法がなかったり難しかったりする場合などに、より漢方薬の役割が大きくなります。

治療内容については、患者様の体質上の問題点に基づいて、作戦をたてていきます。不妊症の治療薬というワンセットの決まったものがあるのではなく、体の根本的な部分を補強して調整する内容の薬をベースに組み立てていきます。
体質はおひとりおひとり異なりますが、いくつか共通した部分もあります。ここでは中医学の臓腑理論(からだの働きをいくつかのグループに分類して、それぞれが協調して働いているとする考え方)に基づいてよくみられる症状を解説いたします。
臨床でよく見られるのは、以下の「腎」・「肝」・「脾」に関する問題です。

「腎」とは、尿を作る腎臓の働きのことではなく、ひとの体力の一番根本的な部分、つまり先天的な体力や成長老化・生殖機能などの土台となるエネルギーと栄養の貯蔵庫のような働きを指す概念です。エネルギーが不足している人(※腎陽虚)は体が冷えやすい以外にも、月経がしっかりと来ない、性機能の低下、慢性的な腰痛などの症状がよくみられます。栄養などが不足している人(※腎陰虚)はめまい耳鳴り・健忘・脱毛・月経量の減少のような「虚」の症状と、からだの熱を冷ます冷却効果の低下からの熱の症状(※虚熱)である火照り・のどの渇き・ねあせ・多夢などがよくみられます。

「肝」とは、栄養代謝などの肝臓の働きのことではなく、主にからだ全体のコントロールをする指揮官のような働きを指す概念です。
自律神経や内分泌などの働きに近いものがあります。この働きをそこなうと、消化器官の円滑な活動に影響して胸やけ・胃炎・便秘・下痢などの症状をきたしたり、ホルモンバランスの乱れから月経の周期や量の問題が生じたり、からだの活動の滞りから老廃物(※お血)を生じて子宮筋腫など腫瘍ができたりする可能性があります。

「脾」とは、解剖学的な脾臓の働きのことではなく、消化吸収排泄の働きを主体とし、栄養代謝やその分配などの働きも含めた概念です。
この働きが落ちる(※脾虚)と、栄養を取り込みにくく体質が虚弱になります。消化不良や便通異常以外にも、免疫力の低下で風邪やヘルペス・カンジダなどにかかりやすくなったり、代謝が落ちて冷え症や貧血になったり(代謝できずに余った栄養は肥満・メタボリックシンドロームなど生活習慣病の一因になります)、子宮内の状態や胎盤を作る機能が不十分になることからの不育症の一因になったりなど、いろいろな方面へ影響します。
「不妊症の治療薬は○○湯です」というような画一的なものではありません。患者様の体質を見極めて、それを改善し強化することが主な治療内容です。漢方薬による治療は万能ではありませんが、ご病状によってはお力になれるものと思います。ご不明の点はお電話で一度ご相談下さい。