耳鳴りの原因と漢方治療

耳鳴りの主な原因は

高い音・低い音、耳鳴りで悩んでいる人は多く、1割以上の人が耳鳴りを経験しているといわれています。
原因となる耳鼻科疾患は様々です。血流の音が聞こえる血管性耳鳴や筋肉の音が聞こえる筋性耳鳴など、実際に何かの音が発生していて、どうにかすれば他の人が音を聞くことができる「他覚的耳鳴」もありますが、頻度が高いのは本人だけが聞こえる「自覚的耳鳴」です。
そして本人が気づいていない場合も含めて、かなり多くの人に難聴がみられます。聞こえやすすぎて耳鳴りの音が聞こえるのではなく、聞こえにくい状態で「脳が耳を澄ましすぎる」ために過敏になったり、本来聞こえていない音を補完する働きが過剰になったりして、いろいろな音が聞こえるように脳が感じるからです。

耳鳴りの治療の基本は難聴対策

一部または全部の周波数の音が聞こえにくい状態を、聞こえにくさの原因となっている疾患(急性期の突発性難聴・メニエル病・中耳炎)の治療により改善できれば、脳には十分な音の情報が届くようになり、過剰に音の情報を調整したりする必要がなくなり耳鳴りが軽減します。
しかし長年の難聴により耳鳴りを生じやすい回路ができてしまっている人や、難聴の原因疾患の治療が難しい人では、耳鳴りが慢性的に残りやすくなります。
こういった場合でも、その人により異なる「聞こえにくい周波数」を重点的にサポートするように調整された補聴器を使うことで耳鳴りを軽減することができます。

耳鳴りのつらさは耳鳴りにどれくらい苦手意識をもって注目するかということでも増強されるので、意識をそらすために背景に常に音を流して緩和させる音響療法や、耳鳴りが聞こえる仕組みを理解して不安感を軽減するカウンセリングなどを行うTRT療法(耳鳴り順応療法)という治療もあります。

漢方薬の治療は「証(しょう)」次第で【漢方(中医学)の立場から】

「腎虚」の耳鳴り

『腎は耳に開竅(かいきょう)する』と表現されるように、成長や老化に関係する根本的な栄養やエネルギーである「腎」の状態は、聴力に関連が深いです。
必要なものが不足している「虚証」の耳鳴りには「腎虚」を補う「補腎」の治療を行います。「補腎陰」には六味丸や知柏地黄丸、「補腎陽」には右帰飲のような「補腎陽」の生薬を組み合わせた煎じ薬を用います。

「肝火」の耳鳴り

自律神経などの体の調節をする働き「肝」が過剰にアクティブな状態「肝火上炎」になると耳鳴りを生じます。
虚弱体質ではなくても、外部からの大きなストレスなどで「実邪」としての「熱」が増えてしまっている場合もあり、治療には「熱証」を冷まして体の調節を回復させる竜胆瀉肝湯などを用います。

「虚実錯雑」も

人の体質は、水風船のように中身が全部同じ性質ということはあまりありません。
体の土台はエネルギー不足の「虚証」・中間でコントロールする指揮所は「実邪」の老廃物がべったりで動きが取れない・体の表面は乱れたコントロールのせいでエネルギーが交通渋滞して「熱証」になっている、などということもよくあります。

健康雑誌についているYES・NOで進むフローチャートで「私は虚だから補う漢方をしっかり飲むのがいいのか」というように簡単に治療薬を決める方法だけでは、全体的に複合してこじれている体質に対してピッタリ合わせた治療を見つけることができません。
同じ「耳鳴り」の人でも用いるべき治療内容が異なりますので、一人一人に合わせた漢方薬を選べる医師の診察を受けて治療を行いましょう。