漢方薬でがん治療をバックアップ

三大治療とされる、手術・放射線治療・薬物療法のそれぞれの分野で、新しい技術が導入され、がんの治療は年々進歩してきています。
がん治療には西洋医学のメインである「攻撃的」治療が重要ですが、副作用が強く出る患者様や体力の低下した患者様の治療では、「侵襲(しんしゅう)」という体力の負担に負け、十分な内容の攻撃的治療を行えないケースが少なくありません。手術の器具や機械が進歩しても、術後の体力回復は必要です。新しい抗がん剤や放射線療法では、できるだけがん細胞だけにダメージを与えるようになってきていますが、やはり副作用や合併症で治療を中断・短縮するということがあります。
そこでがん治療をより効果的に受けていただくためにも、漢方薬によるサポートの重要性が注目されるようになってきました

代表的な副作用対策の漢方薬

胃腸障害

抗がん剤は分裂の激しい細胞に作用する薬なので、分裂の速い正常細胞である胃腸粘膜などには影響を与えやすく、口内炎・食欲低下や下痢などの副作用につながります。
口内炎の痛みには炎症を誘発するプロスタグランジンE2(PGE2)を半夏瀉心湯が抑制することが知られています。半夏瀉心湯に含まれるベルベリンが抗菌作用により細菌性細胞障害を抑制することで、免疫力低下により細菌叢が乱れて下痢になった場合にも改善が期待できます。
食欲の低下は栄養状態の悪化から、攻撃的治療でダメージを受けた組織の回復力や手術後に残ってしまう微小な残存がん細胞を攻撃するための免疫力低下につながります。六君子湯は食欲増進ペプチドであるグレリンの分泌を助けて食欲不振を改善します。

骨髄抑制(貧血)

骨の中にある骨髄細胞は分裂して各種の血球に分化していきます。分裂の速い性質から抗がん剤の影響を受けやすいため、多くの抗がん剤には骨髄抑制の副作用があります。
人参養栄湯は骨髄の血小板や赤血球の前駆細胞を増加させる効果が報告されています。好中球系前駆細胞を増やすG-CSF製剤と役割分担して骨髄抑制を改善することも期待されます。

末しょう神経障害

プラチナ系などの抗がん剤は末しょう神経にダメージを与え、手足のしびれや痛みの副作用がでることが知られています。牛車腎気丸はオピオイド受容体を介して痛覚を抑制したり、NO産生抑制により鎮痛効果を発揮することが知られています。

漢方薬の守備エリア「支持療法」【漢方(中医学)の立場から】

始めはごくわずかな数だったがん細胞を免疫細胞の働きで取り除けなかったことから、数が増え大きくなると、がんという病気が見つかります。免疫力を十分に発揮するためのエネルギーが不足した「気虚(ききょ)」や、本来全身の隅々まで届くはずの力を邪魔する老廃物「気滞(きたい)」・「瘀血(おけつ)」・「痰湿(たんしつ)」に対して、体質の補強や調整を行う「支持療法」としてのがん治療が漢方の守備範囲となる大切な役割です。
「気虚」は、補中益気湯や十全大補湯などに含まれる「補気薬」の生薬でエネルギーを補う治療が必要です。「気滞」には平胃散などの「理気(りき)」、「瘀血」には芎帰調血飲などの「活血化瘀(かっけつかお)」、「痰湿」には柴苓湯などの「利水」の治療を行います。

複雑に重なり合う体質の課題には

がんの背景には基本的に慢性的な体質の課題があります。がん細胞が増えてくる以前から課題が蓄積してきていて、複数の要素が絡み合っていることが多いので、補う治療も老廃物を掃除する治療も、体質のバランスをコントロールする生薬の微妙な組み合わせも、それぞれ必要です。
先程紹介したような漢方方剤だけでは十分に体質改善の効果が見られない場合には、生薬を一種類ずつ調整した煎じ薬で患者様の体質にぴったりと合わせた治療を行うのが良いでしょう。
さらに、手術前の老廃物対策、手術後の体力回復、抗がん剤で消耗した栄養を補う治療など、がん治療の段階によっても、漢方の治療対象となる体質に変化が出ますので、その都度漢方の専門的な知識を持った医師の診察を受けて「その日の体質」に合わせた生薬の組み合わせに変えていきましょう。

緑川流の診察室

複雑な体質を診断するからと言って特別に身構えていただく必要はありません。むしろ微妙な体調の変化の兆しは「こんな些細なこと聞いてもいいのかな?」と患者様がお考えだったりする部分に現れたりしますので、肩の力を抜いて、時には診察室で泣いたり笑ったりしていただいて、お話をうかがうように心がけています。
笑うことは自然免疫を活性化させてがんの治療経過にもプラスになりますので、できるだけ笑顔で診察室を出ていただけるようにと、いつも思っています。
がん治療で不安な気持ちの方は多いと思います。漢方治療のことでも、当院の診療内容のことでも、どんなことでも構いませんので、お気軽にお電話でお問い合わせください。