蕁麻疹(じんましん)と漢方薬

蕁麻疹(じんましん)の病態と治療

 蕁麻疹とは皮膚の毛細血管からもれた水分がたまって浮腫(むくみ)を生じ、かゆみを伴う膨疹などがみられる病気です。比較的短期間で解消していくものを急性蕁麻疹、一か月以上にわたって持続するものを慢性蕁麻疹と呼びます。原因もアレルギー性やその他の外的要因などいろいろありますが、原因のはっきりしない特発性蕁麻疹が約7割を占めます。

 原因によって多少異なる点もありますが、かきむしって症状を拡大しない、アルコールなど血流を促進するものを避ける、蕁麻疹につながるストレスをためないなどの生活の上での対策をとります。治療にはヒスタミンなどのアレルギーにつながる物質を抑える薬や免疫を抑制するステロイド剤などが用いられます。

慢性蕁麻疹の治療は体質次第

一か月以内で症状が落ち着く急性蕁麻疹は、風邪などの感染症や、睡眠不足・過労などの一時的な体調不良に原因があることが多いので、体調が整い体力が回復してくると改善します。一方で一か月以上の長期にわたる慢性蕁麻疹は苦手な外的刺激要因や慢性的な過労状態などに原因があり、抗アレルギー薬やステロイド剤などを結果的に長期間投薬することなりがちです。

 中医学では病気の原因にある体質の問題点を分類して、その情報に基づいて治療の方向性を検討します。以下のかっこ内の用語は中医学の専門用語です。

「熱」と「寒」が変化の激しい「風邪(ふうじゃ)」と結合

 外的な要因で蕁麻疹が出る例として温熱蕁麻疹や寒冷蕁麻疹があり、きっかけとなる刺激はそれぞれ「熱邪」「寒邪」の影響とされています。そして体の表面に変化の速い症状をもたら「風邪」と結合することで、「風熱」の蕁麻疹・「風寒」の蕁麻疹が生じるという考え方です。最終的には皮疹の赤みや熱の持ち方、汗の出方、時間帯による変化や全身的な体調変化の傾向なども含めて診断します。

 「風熱」の蕁麻疹にはそれぞれの邪をはらいのける効果を期待して消風散や銀翹散などを用います。「風寒」の蕁麻疹には温めて表面に向かって発散させる効果のある桂枝湯などを用います。急性の蕁麻疹で一時的に「邪」を処理することで治療が完了する場合はこの内容だけで十分ですが、慢性化している場合はエネルギー不足からの「寒」や体温調整機能の低下から表面に「熱」が生じるなど、より複雑な仕組みを想定して、根本的な体質改善を目指す煎じ薬が必要になる場合があります。

「気」「血」「津液(しんえき)」が滞って老廃物に

 本来は体に必要なエネルギーや栄養である要素ですが、動きが邪魔されたり処理に問題があると、逆に悪影響をもたらす老廃物になります。ストレスが「気」の流れを邪魔すると「気滞(きたい)」が、慢性的な血行不良から「瘀血(おけつ)」が、そして飲食不摂生などから「湿」が生じます。それぞれの滞りを打開するために、四逆湯などの「理気」、桂枝茯苓丸などの「活血」、茵蔯蒿湯などの「利湿」といった方法を用います。慢性化している場合では継続的にご自身で老廃物を生じさせないように、そして逐次処理できる能力を向上させるように身体づくりをする必要があります。

慢性蕁麻疹の本丸はやはり「虚証(きょしょう)」

蕁麻疹は体の表面にでる異常ですが、慢性化する背景には本来は裏方として支える役割を果たす部分の体質の力不足があることが多いです。体の表面の活動や免疫力は「衛気(えき)」と呼ばれ、それを支えるのは消化吸収や栄養の代謝能力である「脾胃(ひい)」とされます。「脾虚」から表面が手薄な状態につながり、免疫の不安定な状態である蕁麻疹が慢性化するという仕組みです。「脾虚」の治療には六君子湯や補中益気湯を用います。影響の処理能力不足があると徐々に「血」の不足が進み、皮膚の潤いや柔軟性を損なうタイプの蕁麻疹になる場合もあり、「血虚」を補う作用も含めた十全大補湯などが必要になります。「虚証」では根本的な課題が複数組み合わさった状態になることが多いため、オーダーメイドの漢方治療がもっとも必要になるジャンルと言えます。