漢方の出番は慢性の胃炎

胃炎には、悪性腫瘍やピロリ菌(ヘリコバクターピロリ)など、原因がはっきりしていて、急性期の胃潰瘍などとともに西洋医学的治療が第一選択であるものも多いです。ここでは漢方薬による治療の適用についての観点から、特に慢性的な経過で、胃腸薬を常用してもなお不調が続いているケースについて重点的に解説いたします。

表層性胃炎・萎縮性胃炎

胃酸分泌が過剰で表面を荒らしている表層性の炎症は、ストレスなど外的要因が自律神経に影響して起こることが多いです。炎症が慢性的に経過することで組織が萎縮して薄くなりると、運動機能の低下をきたすこともあります。症状としては胸やけ・食欲不振・吐き気などですが、胃潰瘍や胃がんでも同様の症状がみられますので、長引く場合は詳しい検査が必須です。胃酸を抑制する薬・胃粘膜を保護する薬・消化管の運動を改善する薬などが投薬されますが、一時的に胃腸に不調をきたしたという方には十分な効果が期待できますが、一定以上の改善が見られない場合は体質的な課題を視野に入れて漢方薬での治療が必要となることもあります。

胃が弱いのは「胃」だけが原因じゃないのかも

中医学では胃腸を含む消化吸収機能のことを「脾」「胃」と呼びます。慢性胃炎ではもちろんこの「脾胃」に問題があるのですが、体質的問題の質により治療の方向性が異なります。大きく分けると弱い部分があるという「虚証」の胃炎と、ダメージを与える「実邪」が原因の「実証」の胃炎です。

「脾虚」は万病のもと

古代の医家の中には、「脾胃」の機能がエネルギー源として重要なので、多くの病気の治療の基礎にそれを補強する内容を重視するという考えの方もおられたほどです。「脾胃」が虚弱な状態である「脾虚」そのものや、さらに体質の土台を支える働きが弱い「腎虚」などいわゆる「虚証」では、弱く不足している要素を補って補強することが治療のメインとなります。「六君子湯」「補中益気湯」などで「脾虚」の改善が期待できます。しかしもともと「腎虚」のベースがあるために、慢性的な「脾虚」から脱却できない状態にある方などは、バランスをとりながら体質全体の補強をするオーダーメイドの漢方治療が必要となります。

「実証」は元気だけど病気?・・・ではありません

中医学では病気の原因が体力にダメージを与える「実邪」である状態を「実証」としています。したがって体質は虚弱だし、働きを邪魔されるしという「虚証」でも「実証」でもあるケース「虚実錯雑」も存在します。「脾胃」の虚弱さはともかくとして、悪影響をもたらす外的内的な要因を解決することが治療のメインになります。「実邪」にはストレスなどにより自律神経などのコントロール機能「肝」の機能が乱れた「肝鬱気滞」、食事の乱れや気候変動などで生じた老廃物「食積」「痰飲」などがあります。「肝鬱」はいわゆる神経性胃炎に近い状態で、停滞した流れをほぐしてくれる「理気薬」が効果的です。「加味逍遙散」「四逆散」などが用いられます。老廃物の処理には「平胃散」「半夏瀉心湯」「大柴胡湯」などが体調に合わせて使い分けられます。複数の「実邪」が絡み合っている場合や、「虚証」がベースの「虚実錯雑」の場合には、やはり煎じ薬での柔軟な治療の組み換えが力を発揮すると考えられます。

胃痛から便秘、栄養失調まで胃腸の不調は幅広いので、適しているのが西洋医学の治療なのか、本格的な体質改善まで必要なのかを見極めるために、まずは専門の医師に受診されることをお勧めします。