アトピーと漢方薬について

当院でのアトピーを「治す」漢方治療と、皮膚科・アレルギー科での治療指針に基づいた治療とを比べると、いろいろ異なる点があります。それぞれに有利な点があるため、必要があれば役割分担をして、東洋医学・西洋医学両方の得意分野を活用した治療を受けていただくことが、患者様にとってメリットが最も大きくなると考えられます。まず、おおまかに各種治療法の特徴をご説明いたします。

1  [西洋医学]ステロイドなどで「症状を抑え込む」治療

皮膚科・アレルギー科で行われるステロイドなどの直接炎症を抑制する治療は即効性が期待できます。体質が丈夫な方であれば、必要な用量をしっかりと投薬することで、アレルギーによる炎症のボリュームが縮小して、早期に減量や中止も期待できます。一方で、ステロイドの用量の割に効果が出にくかったり、減量しようとしても症状が悪化するので仕方なく長期間にわたって投与することになったりする方もおられます。

実はステロイドなどで炎症による腫れや赤みを減らすことができても、新たに皮膚に加わるダメージをゼロにはできません。そのため、皮膚を素早く丈夫に回復させる力が不足している虚弱な体質の方では、徐々にダメージが蓄積して病状が悪化する方向へ向かってしまいます。そういった場合、「ステロイドなどが体に悪影響を及ぼすから徐々に悪くなったのでは?」と考えがちですが、検査結果に反映されない虚弱な体質が根本的な原因となっていることもあるのです。

ステロイドなどの使用を避けるあまり、かえって体力をどんどん削ってしまうような場合には、たとえ副作用があっても、ステロイドのダメージ軽減のちからを借りるほうがベターではないかと考えられます。こういった方にとっては、漢方治療で体質を底上げしていく過程で、必要最小限度だけステロイドを併用して、徐々に減量をめざすのが西洋医学・東洋医学両方のメリットを生かす治療法といえます。

2 [養生]一般の漢方薬や健康食品での「当座の体力を補う」治療

表面的な対症療法と根本的な体質強化の中間にあたる治療法です。体力や栄養を補い、症状軽減の効果も期待できるため、「軽めの虚弱体質」の方には十分効果的です。しかしそもそも体力を補給する能力自体が低いことから体力不足になっている場合は、一時的に補給するだけでは投薬終了後にまたジリジリと症状が戻ってしまいます。改善しても一時的だったり、何度も症状がぶり返すような方は、専門の医師の診察を受けて体質の状態をきちんと把握し、適切に服薬することをお勧めします。

3 [煎じ薬]本格的な漢方治療でアトピーを「治す」

体力が低下した時や、季節の変わり目に体調は悪化しやすいものです。その傾向が年々ひどくなってきている方もおられます。もし日々体力を消耗しても補給する力があれば、年々虚弱になることはありませんし、季節変動や日常のストレスで体質のバランスが崩れてもどっしりと安定した体質の基礎があれば、症状が制御できないくらい体調が乱れることもありません。アトピーの経過が長期にわたる方や、西洋医学の治療薬でスッキリ治りきらない方は、体質の基礎になる部分が虚弱であることが考えられます。

ひとりひとり、虚弱な要素やバランスを崩しやすい状況が異なるので、必要な漢方治療の内容もそれに応じて最適化する必要があり、それには煎じ薬が向いています。順調に治療が進むと、たとえ掻いても皮膚が破れにくくなり、傷になっても短期間の内に丈夫で柔軟性のある傷痕へ治癒しやすくなるので、ご自身でも体質の改善を目で見て実感していただけることが多いです。

アレルギー体質が消えてなくなってアトピーが治るわけではないですが、どのような状況でも弱点に自分自身で対処できる体質を獲得することができるでしょう。

[中医学]漢方治療のしくみ[ちょっと詳しく]

ここではアトピー性皮膚炎に対する中医学的な考え方と治療について解説いたします。難しくなりすぎないように、専門用語は添え書き程度の最低限に抑えています(以下※印は中医学の用語です)。アトピー性皮膚炎はあくまでも皮膚の病気ですが、中医学の立場から体質をみるとその本質は体の表面だけのものではありません。したがって、常に表面の問題(※標証)とより深い部分の体質的な問題(※本証)の両方を視野に入れながら治療を行います。

よくみられる標証にもいろいろあります。
皮膚から浸出液が分泌される状態(※湿)、
皮膚が油分や潤いを失ってカサカサになった状態(※燥)、
皮膚が赤くなって痛み痒みを生じている状態(※熱)、などです。

皮膚の状態からはかなり多くの診察情報を得ることができますので、いつからどんな風な症状が出ているのかを詳しく伺い、皮膚の弾力・乾燥具合や傷口の状態などを観察します。 体質的に湿を生じる原因としては、水分の代謝低下から生じた老廃物(※痰飲)やエネルギーなどのめぐりが悪い状態(※気滞)などが考えられます。さらになぜ水分の代謝が悪くなるのかを掘り下げて考えると、外部からの気候の影響(※湿邪)・飲食物代謝の機能低下(※脾虚)など全身的な原因が見えてくることもあります。それぞれに対応した治療薬として、湿邪には湿気をとばして乾燥させる薬(※燥湿薬)、脾虚には内臓を働かせる力を補う薬(※補気薬)などを互いの薬効を高めあうように合わせて用います。

同じアトピー性皮膚炎の病名の方でも、上記以外の標証のパターンもたくさんあり、根本的な体質の問題(※本証)はさらに多様で複雑なバリエーションにわたります。このため必要とされる治療内容は千差万別となります。実際、これまでにたくさんのアトピー性皮膚炎の患者様を治療させていただきましたが、まったく同じ内容の処方をしたことはありません。

当院では難しい病状の中でも新しいみちすじを日々探し求めて、ひとりひとりに最も適した漢方治療を提供させていただいております。